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    Fukuen’s Glass arts

     下北沢にあるガラスギャラリーを初めて訪れたのは、2012年の夏の日だった。小さな店内には色とりどりのガラスが無数に並び、力強い色彩が一気に目の前に広がった。ここに展示されているものの多くは、宙吹きガラス作家・福圓富信さんの作品だ。
     富信さんは、幼い頃から近所のガラス工房に入り浸り、修行に出るためわずか12歳でフランス行きの船に飛び乗った。隠れて乗船していたところを船長に発見され、与えられた仕事をこなしながら無事に目的地へ到着。言葉の伝わらない現地でも、身振り手振りでなんとか工房に入り込み、ガラス工芸の技術を学んだ。帰国後も岩田工芸硝子株式会社に在籍しながら、ヨーロッパ各地を度々訪れ”放浪の作家”と呼ばれていた。退社後には沖縄の琉球ガラス村に赴き、技術指導者を務めた。
     富信さんの話をいつも楽しそうに語ってくれるのは、ギャラリーのオーナーである妻の葉さん。海外でも多くの賞を受賞した富信さんだが、自分の工房を持てたのは亡くなるわずか二年前。そんな夫の作品をできるだけ多くの人に見てもらいたいと思い、葉さんはギャラリーを開いた。
     私は富信さんの作品と初めて出会った時、その一つ一つがまるで生き物のように思えた。生前、『竿を吹きながら死にたい』と話していた作家の魂が、それらには確かに吹き込まれている。私はそんなガラスたちをギャラリーから連れ出し、自然の中に置いた。花や葉に囲まれたガラスは、以前からそこにあったかのようにひっそりと佇み、私を見つめ返していた。